神 雅喜さん

私と汎マイム工房

 

当時のスタジオは東池袋にある古びた雑居ビルの中にあった。細長い階段を上っての四階である。エレベーターはない。階下はとある不動産会社が陣取っていて、新入社員が社訓らしきものを唱和したり、上司のしわがれた怒鳴り声が聞こえたりで、何やら怪しげな雰囲気を醸し出していた。もっとも彼らからしてみれば、階上の住人の方がよっぽど怪しげに見えたに違いないが・・・。

四階の鉄の扉を開けると狭い廊下が続く。机一つだけの質素な事務所。カーテンひとつで仕切られた荷物置場のようなスペース。そこで着替えを済ませてスタジオに入る。当時はちょっとしたパントマイムブームでスタジオ生の数も多く、そこで着替えるのも至難の業であった。

スタジオに入りまずやることは床の雑巾がけである。何故?という思いもあったが、どうやらそこには、“神聖なる稽古場”を清める(多少大げさかも)という意味合いもあったようだ。実際、見学等でスタジオに入る時も、稽古着に着替えないと中には入れてもらえなかった。

スタジオの床は平台を並べただけの簡素なもので、かなり老朽化していた。雑巾がけの後には浮き出た釘を打ち込む作業が欠かせない。レッスン中にもさっき打ち込んだ釘がすぐに頭を出し、レッスンは途中で中断する。その都度“なぐり”(金槌)で釘を打ち込む。これの繰り返しであった。それも今では懐かしい思い出である。

 

この稽古場では実に色々なことを教わった。パントマイムの基礎から舞台人としての存在意義まで、その範囲は多岐にわたる。もともと役者を志していた私にとって、師匠あらい汎師の演技論はかなりの衝撃であり、「役者の個性的な肉体こそが重要」とする唐十郎の肉体的特権論にも匹敵するものがあった。理論としては、訓練された普遍的な肉体を否定する唐のそれとは真逆になるのかもしれないが、沈黙する肉体の存在が、雄弁な役者の存在を超えて、観ている者の想像力を掻き立てる(実際にそう語ったかどうかは定かでないが)という師の理論は、肉体表現の本質であり、基本である。当時あれこれ分析していたわけではないが、役者には出来ない表現を求めて日々稽古に励んだ大切な時間であった。

 

東池袋のスタジオで六年程過ごしてから、氷川台にある現在のスタジオに移った。スタジオ移転の知らせを受けたのは、ちょうどイタリア公演から帰国した日の成田空港であった。寝耳に水とはこの事で、同行していた黙々団のメンバー(私と藍義啓、そして故・古川朔。汎マイム工房内で結成された男性3人によるパフォーマンスユニット。いずれ機会があればこのグループのことも記してみたい)共々訳が分からず、そのまま新しいスタジオに直行することになった。

何はともあれ、期待と戸惑いの中、新たな創造の場が与えられ、新天地での再スタートとなった。しかし、時というのは悪戯なもので、丁度自身の来し方・行く末を考えていたのと重なった為か、何故か新しいスタジオに馴染めず、一年程して汎マイム工房を去ることになった。三十を過ぎて師匠に守られているより、自身の可能性を試そうと自力歩行を決意しての退団であった。初めて汎マイム工房の門を叩いてから七年目の事である。

あれから二十余年が過ぎ、現在私は、パントマイムを隅に置き、マジシャンとして活動している。だが、師匠あらい汎の教えは私の表現の背骨であり、軸であり、たゆまなく流れる川のように私の中を静かに流れている。この場をおかりして師匠にお礼を言いたい。「あらいさん、あなたからは実に多くの事を学びました。そして多くの仲間と出会う事が出来ました。どうか生涯現役を貫き、益々尖がった爺さんでいて下さい。私も後に続きます。ありがとうございました。」   

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